私の安息死研究会

人間の神と地球の神

 
人間の特質である「理性と自己意識」

私はキリスト教などの宗教は、人間が考えたもので、これを「人間の神」と名づけます。その神に対して、地球と地球上の生き物の全てを創造した創造主を「地球の神」と呼びたいと思います。「地球の神」はバクテリアなどの地球上の最初の生き物の命に「死の遺伝子」を埋め込みました。この命に埋め込まれた「死の遺伝子」のため後に続く生き物は新陳代謝を繰り返し、選択的方法にもとづき進化を続けて今日に至りました。(田沼靖一『死生学3』2008.7.18、197頁)。そして生物の進化の最終産物である人間には大脳新皮質が付与されました。この新皮質によってアリストテレスなどがいう人間の特質である「理性と自己意識」が身に付き、人間が自分で考えて自律的に行動することが可能となりました。

種の全体の均衡

地球上の進化のプロセスのなかで、ある種の生き物の個体の数が多すぎると、命の中に埋め込まれた「死の遺伝子」が活発に働き出して命を絶ちます。例えばイナゴの大群は大発生した後、本能的に海へ飛び込んで集団自殺をしたり、疫病が蔓延して全滅したりします。遺伝子の働きによって過剰に繁殖した命が淘汰されて、種の全体の均衡が保たれるようになっています。

人口増加は人類に種の危機が迫っている予兆

一方、人間の世界では産業革命以来の200年間で人口が爆発的に増え、紀元1年に2億人だった世界の人口が現在75億人に激増しています。その結果高齢化が進み、老人病も激増してきました。ある高名な歯医者の話として、人間の歯は60歳まで生きることを想定して作られていると聞きました。人間の歯は命を保つために必要な食物を咀嚼する一番重要な役割を担っている器官です。その耐用年数が60歳であるとすると、現在のように平均寿命が80歳を超えているという情況は、「地球の神」の意思に反して生き延びていることになります。このことは「地球の神」によって先天的にプログラムされた寿命によって受動的に死んでいく動物と違って、人間はやはり「地球の神」によって授けられた大脳新皮質の働きによって自律的に寿命を引き延ばしているということになります。この「地球の神」の意思を無視した強引な行為は何らかのしっぺ返しを食うことがないのでしょうか。現在ガンや認知症などの老人病が蔓延しているのは、「地球の神」の不満を表現しているのでなければよいのですが。いずれにしても、人口が幾何級数的に増加することにより生じる老人病の増加は、人類に種の危機が迫っている予兆ではないかと疑念を感じさせます。人々は科学や技術の力を過信して、動物の世界で起こっている種の危機に目を閉ざして、この種の危機の問題解決を先送りし続けています。

日本人の7割が安楽死を望む

そうかと言って増え続ける人口を抑制するために、過去のように戦争をするわけにいかず、産児制限をしても少子高齢化を促進するばかりで効果を期待できません。江戸時代のような「姥捨て山」も論外です。それでは一体どうすればよいのだろうか。死にたくない人を無理に死なせることはもちろん出来ません。しかし死にたい人がいれば、望みに応じて喜んで死んでもらうのは合理的な判断です。各種マスメディアや研究機関の調査によれば、日本人の7割が安楽死を望んでいます。また、現在日本で450万人の認知症患者がいて、2025年には700万人を突破して65歳以上の5人に1人が認知症になると推定されています。

「地球の神」が人口調整

人間を他の動物から区別する基準となってる大脳新皮質の知力のお陰で、人類は限られた規模の食糧を科学技術の力を利用して増産し、医療技術の発達により、イナゴのような集団自決をせずに生き延びてきました。しかし人間社会の経済活動のなかに景気循環の波があるように、物が足りないとインフレが起こり、物が増えすぎるとデフレになります。この景気循環のおかげで一国ないし世界の経済が破たんせずに何とか維持されています。いま人間社会は爆発的な人口増加と賞味期限を超える長寿現象により、命のインフレ状態を呈しています。この命のインフレ状況に景気引き締め対策のような対応策が必要です。科学技術のおかげで、食料は増産できるし、人の命も100歳以上まで伸ばす可能性があるということで人々は楽観していますが、天災は忘れた時に来るというように、「地球の神」が人知を超える命の大恐慌を起こすことを考えているかもしれません。「地球の神」はヨーロッパの中世にペストを広範囲に流行らせ、その影響で人口が半減したと言われています。日本でも鴨長明が「方丈記」で記しているように、京の都は絶えず天災に見舞われました。現代でも二酸化炭素の増加による温暖化現象で、地球の温度が上昇し、南極の氷や高山の氷河が解けて、海水の水位が上昇しつつあります。

人間は地球の住民

人間は「地球の神」から与えられた大脳新皮質の機能を乱用して、自分たち人間が地球の住民であることを忘れて、地球上の掟を無視して勝手に暴走しようとしていれば、いずれ「地球の神」の怒りに触れて取り返しのつかない大災害に見舞われることが避けられません。このことをしっかりと肝に銘じておく必要があります。1962年にアメリカのケネディとソ連のフルシチョフの時代にキューバ危機が起こり、あと一歩で核戦争へ突入しそうになりました。核戦争となると、この人災は天災を引き起こす危険性をもっています。今後このような事態が再発しないように、人間は地球の住民であるという自分の身分・立場をしっかり意識して慎重に行動する必要があります。

このように我々現代人は地球の住民として地球的視野に則って、環境の激変を直視して、過去とは断絶した画期的な視点から物事を見直す必要性に迫られています。  

楽しい世界を開拓

人の命に関する考え方についても現在の閉塞状況を打開するためには、抜本的な視点から再考の必要があるのではないでしょうか。とりあえず私たちが提唱している「認知症対象の私の安息死」が現状打破の一つの解になると思います。しかしこの認知症対象の対策はまだ十分な広がり・規模をもたないので、さらに抜本的な解決策を考える必要があります。例えば、安楽死を希望する人に安楽死用錠剤を健康保険を使って合法的に購入できる制度を設けることができればどうでしょうか。人々は苦しみながら死ぬ恐れから解放されて、死期が迫るまで積極的に生き生きと生活を楽しみ、死期が来たら家族や親しい友人と最後の晩餐を一緒に催し、賑やかに惜しまれながらあの世へ旅立つことができます。各個人がこのように旅立つことができる制度が完備すれば、高齢者が元気になります。高齢者が年を取ることを恐れず引退後の生活を楽しく過ごす様子を見れば、生計を立てるため様々な制約と闘いつつある現役世代の人びとも、引退後の楽しい生活を夢見ながら前向きに働くことが出来ます。どうしてこういう楽しい世界を開拓することが出来ないのでしょうか。

研究会テーマ発表

  1. HOME
  2. なぜ私の安息死研究か
  3. 私の命は私のもの
  4. 自分の命 一人称の死
  5. 安楽死で死なせてください
  6. 肉体的治療と統合的治療
  7. 死の美学

    ~終わりよければすべてよし~

  8. 人間の神と地球の神
  9. 「サピエンス全史」と地球の神
  10. 安楽死研究遍歴の旅
  11. 研究ノート 安楽死合法化の戦略論
  12. 安楽死参考文献
  13. 性悪説で作られた刑法202条